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2025.11.06

絵本のためのイラストレーションをみる
―ブラチスラバからやってきた!世界の絵本パレード― 長田 里恵

 絵本は、子どもが最初に出会うアートであり、創造力や感性を育てる重要な文化といえるでしょう。大抵、幼い子どもに絵本を与えるのは身近な大人です。子どもは、赤ちゃん向けの絵本に始まり、年齢を重ねるにつれ、発達に合った絵本に触れあっていきます。では、大人は何を基準に絵本を選ぶのでしょうか。ストーリーやイラストレーション、紙の質感、この作家だから、名作だからなど、人それぞれの判断基準はあるでしょうが、子どもと距離の近い母親の多くは、私のような思いで選書しているのではないでしょうか。

 私が子どもに絵本を選ぶ時は、絵本を通して子どもに何かしらの良い効果があることを期待して選書していました。物語を読む(聞く)ことで、感受性が豊かになってほしいと願うことは大前提として、その他に具体的に上げると、「おしゃぶりをやめさせたい」「好き嫌いせずに食べてほしい」など、絵本を通して教えたいという思いがありました。そして、ストーリー、イラストレーション、読み聞かせやすさなど、書店や図書館の絵本棚の前でいろいろと吟味していたような記憶があります。

 一方で、子どもがある程度の年齢に達し、自分で絵本を選ぶ時、表紙や中身をパラパラと見て、驚くほど迷わずに決めていたことが多かったように感じました。もちろん、まだ文字が読めない頃でしたので、子どもは絵本のイラストレーションを見て選んでいたのでしょう。

 そもそも、絵本とは言葉とイラストレーションが密接に関係した媒体です。絵本において、言葉は、物語のすべてを語るものではなく、イラストレーションはすべてを見せるものではありません。例外的に言葉のない絵本も存在しますが、絵本の多くは、言葉がイメージを作り、イラストレーションが物語る、両者が一体となって読者に語りかけます。このように、絵本にとって、言葉とイラストレーションは切っても切れない関係ですが、先述の我が子のエピソードのように、絵本のイラストレーションには、文字が分からなくても、何かを感じ取る圧倒的な力を持っています。

パロマ・バルディビア《問いかけの本》2022年 ©Paloma Valdivia

そして、スロバキア共和国の首都ブラチスラバで2年ごとに開催される「ブラチスラバ世界絵本原画展」(略称BIBBiennial of Illustrations Bratislava)は、子どものための絵本のイラストレーションに焦点を当てた、世界最高峰の国際コンクールです。イラストレーター、美術評論家、出版社、図書館司書など、世界各国の専門家が国際審査員として、絵本のイラストレーションの芸術性を評価しています。

 その評価のあり方、すなわち、「絵本そのものをどのように捉えるか」は、BIB設立当初から繰り返し議論されてきました。しかし、あくまで「絵本のためのイラストレーション」を対象とするという前提が審査員の間で共有されており、今回の審査員評をみると、物語とイラストレーションの調和、そして国や言葉を超えて物語を支える表現力や手法が評価の基準となっているでしょう。

 また、芸術性の基準は決して不変的なものではありません。時代が変われば美意識も変化します。そのためBIBでは、専門家たちによる平等かつ活発な議論を通して、新たな評価基準を、自ら検証し続けることで、世界の最先端を走る絵本原画コンクールであり続けているのです。

 本展では、第一部にグランプリをはじめとする受賞作品、第二部に日本代表の作品が展示されています。すべての作品のキャプションには、物語の簡単なあらすじや解説があり、実際の絵本が手に取れるようになっています。特に海外の作品を鑑賞して、キャプションに書かれていることだけでは物足りないと感じられる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、色や形、線のリズム、画面構成、表現方法、言葉が分からなくても、イラストレーションから感じられるものは確かに存在しています。言葉がなくても、言語が分からなくても、子どものような真っすぐな眼差しで、イラストレーションそのものが語りかけてくる世界をお楽しみください。

 

 

参考文献 

ベーシック絵本入門(発行2013年 ミネルヴァ書房)

図録 ブラティスラヴァ世界絵本原画展 絵本をめぐる世界の旅 (発行2014年)

   ブラティスラヴァ世界絵本原画展 ―BIBで出会う絵本の今 (発行2018年)

   ブラチスラバ世界絵本原画展 こんにちは!チェコとスロバキアの新しい絵本 (発行2020年)

   ブラチスラバからやってきた!世界の絵本パレード (発行2024年)